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第5回甲状腺検査評価部会(2/2)の議事録を読みました

【第5回甲状腺検査評価部会(2/2)の議事録を読みました】
 福島県の県民健康調査検討委員会の下に、「甲状腺検査評価部会」があり、甲状腺がんの評価や健康調査のやり方を議論しています。その第5回の会合の議事録が最近公表されました。
→ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/109100.pdf
  
 読んだ印象は、議論の応酬はあるが、最も重要な部分に議論が向かわない。意図的に回避しているのか?と思われます。最も重要な部分とは、甲状腺がんの手術が87例に上ったが、これは異常な多発なのか?そうではないのか?という問題。議事録にはこの部分の周辺をさまよう発言が繰り返し出てきます。
 
(以下、議事録は長いので象徴的なところを抜粋。ただし核心部分だけを抜き出しても議論のつながりが見えにくいので、なるべく流れが判るように引用しました。正確さを求める人は議事録全文を読んでください。)
 
 まず前半。渋谷健司氏が、がんの発見数と手術例が明らかに多いことを認めた上で、異常な多発ではなく「過剰診断」と決めつけます。また甲状腺がん手術が多いのは手術のガイドラインが不適切だからで、作り直せと繰り返し要求します。
 
(渋谷14ページ)
「私の意見としては、今回明らかに有病率は通常のがん登録から予想されるよりはるかに高いということで、可能性としては何か異常な事態が起こっているのか、あるいはいわゆる過剰診断という事が考えられて、今の被ばく状況から考えると過剰診断。」
「やはり今きちんと診療ガイドラインはあると思います。ただそれは病院に症状を持って来た患者さんを対象にして作られた診療ガイドラインであって、今回のように無症状の謙譲な方を対象にして検診で発見された甲状腺がんに対するガイドラインではないわけです。」
 
 これに対して県立医大や検討委員会の委員らから、手術を行う判断は極めて慎重に行った、医学界のガイドラインも過剰診療を考慮して作ったものだ、との反論が繰り返されます。すこし順序が変わりますが、以下のような議論です。
 
(西15)
「例えば今回の本格調査で17.4ミリの方はですね、これは本当にがんだとオペされたか知りませんけども、見つかって良かったんじゃないかなとは思いますですね。それから子供の場合はやっぱり転移も多いですし、肺への転移も多いと文献的にありますので、ですから成人のガイドラインと小児のガイドラインとはですね、ちょっと違うような気がするんですよね。(中略)それ一部はあるかもしれませんけども、全員が過剰診断ではないだろうと。一部は過剰診断があり得るかもしれません。」

(渋谷18)
「そもそも症状がない方でたまたま甲状腺検査、超音波検査をして見つかったがんというのは恐らく前回の津金先生のデータからも一生悪さをしない可能性は高いと。病院にいらっしゃって今の診断ガイドラインに沿った方はもちろん手術しなければいけないけれど、今回超音波検査で見つかったがんのお子さん達はですね、そのガイドラインを機械的に当てはめて良いのかというのを僕は問うているわけです。」

(清水修二18)
「同じ大きさの結節なりなんなり見つかった場合でもその後の扱いに区別をするというふうに仰るわけですか。」

(渋谷18)
「そうです。」

(清水一雄18)
「症状が出て病院に来る患者さんというのは遅いです。ほとんどの患者さんは無症状ですね。痛みもない、たまたま家庭で食事をしている時に飲み込んだらポコッと甲状腺のしこりが動くのが見えて、人から指摘されたとか、そういうところから見つかる。これはかなり大きくなってからですね。で、最近来る患者さんはあの外来でやっていますとエコー検査の例えば頸動脈エコーの検査をやっている。ついでに甲状腺をひっかけた時に見つかってしまったとか、これはあの甲状腺を検査しようと思って病院に行ったわけではなくて見つかる方もいますね。それで比較的進んでいる人もいます。」

(西18)
「子供の場合はですね余命期間が長いですよね。40代50代の人はせいぜいあと30年ちょっと。しかし10歳位だったら70年位ありますから余命帰還が全然違うということと、いろんな英文には書いてあるのですけれどもやっぱり子供の場合は結構大きくなるとアグレッシブにかなりアグレッシブに治療しなければならないからEarly detectionが良いのじゃないかなという傾向もアメリカの報告にそういう風に書いてあるんですよ。だから人間ドックの従来の考え方と子供の考え方とは違うのだろうと。」

(志村19)
「今の診療ガイドラインは症状がある方に対してというよりもそういう偶発的にいらっしゃった方に対するガイドラインという色彩が強いもので、それは今回の検診と基本的には同じだと考えています。あと過剰診断は成人ではごもっともその通りだと思いますが、小児の場合は本当にそれが過剰なのかどうかというエビデンスは無いと思いますので、我々は臨床的にリスクを非常に厳密に評価して対応しております・・・・。」

(渋谷20)
「先ほど西先生が仰った、色んな文献で子供の甲状腺がんというのはアグレッシブであると、転移も多いとそういうことを仰ってましたけど(中略)、今回のように小さくたまたま症状がない方を全て甲状腺の検査をして見つかったがん、本当にそうなのかどうかというのはやはり判らないのだと思うのですね。」
 
 この議論の過程で、手術数が異常に多数である事の意味、特に手術症例の症状の検討・分析や原因の検討に議論が向かうきっかけは幾つかありました。しかし・・・・・・、
 
(渋谷21)
「やってみてこれだけ多数見つかって、80数例も手術されているわけですよね。それぞれが本当にする必要があったのか?そうしたものを考えた点で、前回の津金先生のデータからすると予測される有病率よりもはるかに高くて(中略)、今の被ばく量からするとそこまで出る、あるいは時期的にもそこまで出る可能性は低いというのは皆さん何度も述べているわけですよね。じゃ、可能性としてどうなのかと考えた時、過剰診断(中略)、それが一番妥当であると。(中略)特に過剰診断見つけてしまったことはしょうがない、じゃ、そのあと手術するのかどうか。」

(清水21)
「細胞診で109人見つかって85人手術したわけです。これは前回の委員会・部会の時に、鈴木先生からご説明いただいたように、109人全員手術したわけではなく、その中で専門家、外科医が集まってあるいは内科の先生が一緒だったかもしれませんが、この手術は必要だと判断して行った85名であると私は理解していますけども。」

(鈴木21~22)
「我々は、日本では、過剰診断、診療になるということを百も承知で日本が世界に先駆けてそういう基準を設けて過剰にならないように、なるべく微小がんを取らない、経過観察をするということで、この基準もその1つとして作られたもので(中略)、日本の全国の専門家と相談してこの基準も決めております。その結果でやっていることです。(中略) 今見つかっているのは過剰に早い所ではないですが、一般的にとるべき臨床例の早いほうに来ていますので、ご存じのように片葉切除が非常に多くて、(以下省略)」

(加藤23)
「鈴木先生の話ですと5ミリ以下の結節に関しては、これはもうフォローアップで行くというふうなことをお話しされたと思いますで、で5ミリ以下の結節というのはかなりの部分でがんも含まれているわけですが、それはなるべく触れないでというふうなことでフォローアップして行きましょうという形で、一応そのOverdiagnosisを意識した形で治療を行っているんではないかなと自分自身では感じたのですけど、その辺は意識されているのでしょうかどうか」

(鈴木23)
「剖検例で見つかる甲状腺がんが数十%ある。そのほとんどが5ミリ以下その中でもさらに小さいのです。多数多発して小さい物が多いということで5ミリまではそういうものがかなり含まれるだろうというのが想定されています。それが10ミリっていう所ではまだコンセンサスが正確に得られていないので5~10は二次検査に上げた上で、二次検査で厳しい診断基準で細胞診をする人はそこからセレクトされます。極めて悪性が疑われる人だけ細胞診をする。ですから実際見つかった人も手術例ではご存じのように小さいなりにも進行しているものを今のところ選べているものが多いということで、そういう抑制的な基準で今、子供にも適用しているというところでございます。」
 
 これらの中で、改めて甲状腺がん手術の症例の多くが「一生悪さをしないがん」「見つけなくていいがん」ではなく、「一般的にとるべき臨床例の早いところに来ている」「手術例では・・・・小さいなりにも進行しているものが多い」などが主張されました。
 
 しかし議論はそれ以上具体的に深まらず、『手術は過剰診療ではない』という自己弁護と甲状腺がん手術のガイドラインの是非に終始します。そして渋谷氏が核心を突き、部会長がまとめます。
 
(渋谷22)
「すみません、先生言っていることと僕言っていること全然矛盾していないのですよね。まず過剰診断あると先生認められているのですよね。ですから過剰診断はあるわけですよ。」

(清水22)
過剰診断に気をつけなくてはいけないという所では、意見は一致しているというふうに思います。」
 
 最後にはこんな指摘もありました。
 
(欅田24)
「放射線との関係についてはどうなのかということに関して言えば、これは放射線の影響ではないだろというのは県の見解になっていますし、それは私たち放射線に関する研究をやっている人あるいはUNSCEAR,WHOの国際機関の報告でも(中略)概ね日本、今回の福島の事故の場合はないであろうという風な結論をいただいているところですよね。そしたら・・・手術適用になる人がこれだけおられるということになれば放射線の影響がないというのであれば、全国の人でも同じだけ手術適用のお子さんがいると言うことになると読まれてしまうことにもなりかねないですけど、そこはどうなるのでしょうか・・・」
 
 しかしもうこの問題は取り上げられませんでした。
 
【「過剰診断」で重大問題に蓋をした】
 「放射線の影響は考えにくい。」
 「放射線被ばくによる異常多発はないから、あとは『過剰診断』しか理由は考えられない。」

 これは検討委員会の共通認識、いわば前提条件です。「過剰診断」はスクリーニング効果の言い換え。甲状腺評価部会は大きな矛盾を「過剰診断」の言葉で抑え込んで蓋をしました。
 
 しかし甲状腺がん手術数から判断すると明らかな異常多発。しかも「臨床例」「小さくても進行している」がんだと主張されます。ここに彼らの一番の弱点があります。
 
 前回(昨年10月)、手術54例の94%は10ミリ以上の腫瘍であるかまたは「転移」「浸潤」を伴っていたと公表した県立医大の委員らは、今回は反響を恐れて具体的な資料を出さず、議論の中でも手術事例の症状の具体的な報告・説明をしませんでした。彼らはその意味~福島の子どもの甲状腺がんは「一生悪さをしないがん」ではない~を当然わかっていますから、意図的に議論を避け、蓋をしたのでしょう。これは他の多くの委員も同じです。
 
 こうして議論は本質的に渋谷氏の主張する方向でまとまり、3/24の第6回甲状腺評価部会には、上の議論を反映した「中間とりまとめ案」が提出されました。
→ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/107582.pdf
 
 部会の結論は、甲状腺がんの手術事例の異常な多さは言及されず、再度「放射線の影響とは考えにくい。」そして言い訳のように「事故初期の放射性ヨウ素による内部被ばく線量の情報は、今回の事故の影響を判断する際に極めて重要なものである。」
 
 こうなるのは、検討委員会が被ばく線量の線量評価にしがみつき、現実の健康被害の異常事態を受け入れる腹がないからです。線量評価から出発すれば「健康被害が出るはずがない」と言って、しばらくの間は放射能の健康被害の否定できます。
 
 もう1つの理由は、「県民健康調査」の精度維持を目的にしているから
 
 県民健康調査を続ける上で「過剰診断」の批判は受入可能な範囲です。多少データ数を絞っても、被ばく線量の大小がはっきりしている人を検査する方がデータの有効性は高まる。それにヨウ素被ばく線量の調査は、ICRPの枠内なら「放射線の影響とは考えにくい」を裏づける結果をどうにでも作れます。
 
【県民の不安と不信を無視できない】
 議論の前半は上のように困った結論になりましたが、後半では県民の世論が行政に影響を及ぼしていることがよくわかります。
 (この直後の検討委員会には「県民の声」が初めて資料に上り、報告されました。
→ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/101607.pdf )
 
(福島県保健福祉部長20)
「報道などで過剰診断というのを見て非常に違和感を覚えるという、これは保護者の方のご意見です。なぜかと言いますとまさに放射線被ばく、チェルノブイリの例を皆さん勉強なさっていて、やはり子供さんのことが非常に心配だ,ということで2年にいっぺんと言わず毎年検査してくれというような声が県にも多数寄せられてきたということで、・・・・(以下省略)」
 
 甲状腺がん治療費の公費負担はすでに合意済み。その上で、検査データの所有に関わり県立医大の説明の仕方に議論が流れます。これは現実に県立医大の甲状腺検査の不満・不信が無視できなくなっているから。
 
 しかし根本的な解決策は提案されません。それよりも「そのデータが公費負担をすることによって誰のものになっちゃうの、ということも明示されなければ、やっぱり不安を確実に取り除くことはできない」との発言からは、福島県が甲状腺治療の公費負担により医療データも自分の物にするのか?という疑念が湧きます。県も公言するように、県民健康調査は「検査データは県の物」とする制度です。
  
 3/24の「中間取りまとめ案」も、検査データは本人の物とは言いませんでした。ここにも彼らの矛盾があります。県民健康調査を維持する限り、不信感は減りません。
 
 3月27日、希望する全ての人への放射能健新を要求して環境省と交渉しました。環境省の態度は年末以来の情勢の変化の中で、とても頑なになっていました。一方で彼らの弱点を再確認した交渉でした。福島県の動きを踏まえて、次回報告します。
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